隣の映画観|映画評|ナショナル・シアター・ライヴ『戦火の馬』(岡山和正)

喋らない動物こそ、雄弁に物語る―

「隣の映画観」の連載2回目は、『War Horse』(邦題:戦火の馬)だ。

 

今回は、2011年に公開された映画監督/映画プロデューサーのSteven Spielberg(スティーヴン・スピルバーグ)監督の映画作品ではなく、英国ナショナル・シアターが贈る舞台を映画館のスクリーンと音響で観劇することのできるNational Theatre Live(ナショナル・シアター・ライヴ)の『War Horse』(邦題:戦火の馬)を取り上げたい。

ちなみに、Steven Spielberg(スティーヴン・スピルバーグ)監督は、舞台『War Horse』(邦題:戦火の馬)を鑑賞し、「この感動を世界に届けたい」と作品を作ることを決意したという。

作品の内容もさることながら、舞台でのパペットの馬の動きだけで一見の価値がある。最初はきっと、傀儡回しの熟練した技術に感動するが、その感動はすぐに消え去ってしまう。そして、ふとした瞬間、そこに馬がいることを疑わない自分に気付くだろう。

動物が中心に据えられた作品を鑑賞するのは大変難しい。動物は語らない、つまり鑑賞する側の想像力の翼を広げなくてはならないからだ。しかし、この作品はスクリーンの前でおとなしく座ってさえいればよい。それだけで、我々をその舞台に引き込んでくれる。

今作『War Horse』(邦題:戦火の馬)では、サラブレッドと農耕馬の混血である「ジョーイ」が中心となり話が進む。原作の小説を読んだ方は、ジョーイがその心情や状況を説明をしてくれることを知っているだろう。この舞台では、そういった描写は無く、周囲が馬の気持ちを汲み取っていく。ただ、劇中に登場するパペットの馬がその動きで多くを伝えてくれる。傀儡回しの卓越した技術には本当に驚かされる。

少し視点を変えてみよう。「馬」と聞いて、どんなイメージを持つだろうか。私の場合「華麗」「俊敏」「雄大」などのキーワードが思い浮かぶ。他にも「イルカ」だったら「知性」「優美」などの印象を持つ。こうした、動物への想いは少なからず鑑賞することに影響を与える。

カウンセラーは、先入観を排除し、クライエントと向き合うことが求められる。それは、「目の前の相手がどう考えたか」ということを大切にするからだ。映画を観る際も、私は先入観を極力なくし「その映画が何を言いたいのか」を捉えられるように心がけている。

一方で、映画の中心に「馬」がいるからこそ、ストーリーの高潔さが保たれる。「馬」という存在へのイメージが作品を形作っていることを違う角度から捉えると、文化や言語の異なる国の人々も「馬」という存在に対して、近しい感覚を抱いているのだろうと推測されることである。だからこそ、世界中で愛される作品なのだろう。先ほどは先入観を除くべきと言ったが、作品への期待感やイメージは取り除くべきではない。そのさじ加減が、私の中では途轍もなく楽しい。「あぁ、こういう話ね」と決めつけるよりも、作品そのものを受け入れるといった具合だ。

 

また、鑑賞のための前提知識が、この作品にとっては「あればより良い」という存在であることも大きなポイントだ。第一次世界大戦期のヨーロッパの事情も知らなくてよい。私は、舞台の鑑賞経験が映画のそれと比較して著しく少ないのだが、そんな初心者が見ても「演出の素晴らしさ」「舞台での表現」に感銘を受ける。

この作品には、ファンがたくさんいる。今回の上映を楽しみに待ち侘びていた人々が。その方々には説明の必要なんてない。私は、今回、私のように舞台に明るくない人に向けて、これを書いている。

そして、きっと私と感想を同じくするだろう、「あの人に見せたい」。

私はいささか語り過ぎた、劇場ではジョーイをはじめとした喋らない動物の声にしっかりと耳を傾けて頂きたい。

National Theatre Live “War Horse”
ナショナル・シアター・ライヴ 『戦火の馬』

ストーリー

スティーヴン・スピルバーグ監督が感動し、映画化したことで有名な舞台。見事に馬の存在感を表現したパペットの動きを余すことなくとらえたカメラワークは、新たな表現手法を発明したとも賞賛される創造的で力強い舞台を、より深く楽しめるものにしている。主人公が幼少時から愛し育てた馬が軍馬として徴用されたことから、数奇な運命をたどることに。果たして二人は再会できるのか?オリヴィエ賞、イヴニング・スタンダード賞、批評家サークル賞を受賞し、タイムズ紙の<10年間の最優秀劇場公演>に選ばれた、世界で大きな反響を呼んだ名舞台。

  • 公開: 2016年11月11日(金曜日)から11月16日(水曜日) TOHOシネマズ日本橋ほか全国公開
  • 原作: Michael Morpurgo(マイケル・モーパーゴ)
  • 脚色: Nick Stafford(ニック・スタフォード)
  • 演出: Marianne Elliott(マリアンヌ・エリオット)、Thom Morris(トム・モリス)
  • 主演: Sion Daniel Young(ショーン・ダニエル・ヤング)

ナショナル・シアター・ライヴ 『戦火の馬』
http://www.ntlive.jp/warhorse.html

文: 岡山 和正

岡山 和正 (おかやま・かずまさ)

ライター/心理カウンセラー。SOUL SAPIENS(ソウル・サピエンス)の映画評「隣の映画観」を連載、心理カウンセラーの視点と新しい切り口から映画作品を分析。カウンセリングにも映画に関する話題を活用している。また、普段から不登校問題の解決や対人関係の改善を中心に幅広い問題や課題の解決に奮闘。日本国ではまだ馴染みが薄いカウンセリングやカウンセラーではあるが、Health(健康)とMental Health(精神的健康)を重要視する海外のように、対人関係や職場環境等の問題を抱える日本国内でも学校や職場におけるカウンセリングを日常化するために挑戦している。情勢や歴史、精神論にも造詣が深い。

   
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