隣の映画観|映画評|映画『ザ・コンサルタント』(岡山和正)

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映画とともに散らばったパズルをはめる―

※注意: この記事には、作品のネタバレになる文章や表現があります。まだ作品をご覧になっていない方は、ご注意ください。

 

いままで数多くの映画作品が作られ、たくさんのヒーローたちが生み出されてきた。

映画『The Accountant』(邦題:ザ・コンサルタント)の主役、Ben Affleck(ベン・アフレック)演じるChristian “Chris” Wolff(クリスチャン・ウルフ)は、いままでにない異色の人物だ。

人物像を分解すると「裏社会の帳簿を握る会計士」「狙撃と暗殺術のスペシャリスト」、そして、「自閉症スペクトラム」という、それぞれにフォーカスを当てても作品が作れるほどの大きな特徴を持っている。幼少の頃の描写では、社会適応に苦慮する姿が描かれているが、作品が進むと徐々に生育過程や現状に至るまでの道筋が明らかになってくる。

この作品は、基本的に無口なChristian “Chris” Wolff(クリスチャン・ウルフ)と同様に、説明の少ない構成となっている。特に「自閉症スペクトラム」については、予備知識がないと見ていて混乱してくる場面もあるかもしれない。アメリカでは「自閉症スペクトラム」に関して、個性と捉えて伸ばそうとする動きが日本よりも一般的で、その背景がこの作品を生み出す土壌にもなっている。映画界では、映画監督/映画プロデューサーのSteven Spielberg(スティーヴン・スピルバーグ)監督も「自閉症スペクトラム」と言われており、Steven Spielberg(スティーヴン・スピルバーグ)監督の活躍は我々もよく知るところ。映画『The Accountant』(邦題:ザ・コンサルタント)のChristian “Chris” Wolff(クリスチャン・ウルフ)もSteven Spielberg(スティーヴン・スピルバーグ)監督同様に、そのこだわりが作品のスパイスとなり、高いIQは仕事に活かされている。Christian “Chris” Wolff(クリスチャン・ウルフ)は、コミュニケーション能力に欠ける人物なので口下手で口数も少ない。だからこそ、表情の変化や動き、言葉のつまりなどに注目せざるを得ず、我々にスクリーンに入り込むことを要求する。分かりやすい描写としては、車庫入れのシーン。家の車庫に入るタイミングは、完全に計算されており、車庫のシャッターを上げるタイミング、進入速度やブレーキングまで完璧に行われる。しかし、Christian “Chris” Wolff(クリスチャン・ウルフ)の心が乱れていると車庫入れは失敗する。

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ここまではネタバレに気を付けながら書いてきたが、以下は多くのネタバレを含むのでご注意いただきたい。

個人的には不器用な恋愛についての描写が秀逸だと感じた。女優のAnna Kendrick(アナ・ケンドリック)演じるDana Cummings(デイナ・カミングス)に恋をしたであろうタイミングを振り返ると、いくつもの苦難を乗り越えて・・・という王道パターンではなく、仕事で少し関わったに過ぎない関係なのに好意を抱いていることになる。冷徹に状況判断できる人物であるのに、リスクを負って彼女を助けようとするのは、その時点で完全に彼女に気持ちがいっていたはずだ。全く女性に免疫がなく、少し仲良くしてくれた隣の席の女の子を好きになってしまう現象に似ているが、それだけで命を賭すとはかなりの気持ち。こだわりが強い人物であり、ずっと収集してきた絵画などがあるにも関わらず、それらを失う覚悟で彼女を守ろうと動く。それは、愛や恋という単純な表現だけでは足りず、こだわりの対象が彼女に移行したのか・・・と見ていた。そうとでも理解しなくては、この後のDana Cummings(デイナ・カミングス)との不器用な関わり方に説明がつかない。そして、最後のシーンではそれを裏付けるかのようにDana Cummings(デイナ・カミングス)が興味を示した大変価値がある絵画を贈っている。最初のシーンでパズルのピースが一つ見つからずにパニックになっていた子どもは、自分が作った絵画のコレクションからその大切な1ピースを他者に譲渡できるほど心に余裕が生まれたのだろうか。ここに強い好意を見て取れたが、気の利いた演出と共に贈られたプレゼントには違和感があり、急に女性との付き合い方が上達し過ぎている。それでも、愛の力と言われれば納得して引き下がるしかない。彼の価値観を大きく変えてしまうほどの女性Dana Cummings(デイナ・カミングス)の人物像と恋模様にも是非注目して観て欲しい。

 

そして、カウンセラーとしては複雑だったのが彼の生育環境だ。軍人である父のスパルタ教育によって、彼は社会適応できるようになってきたと描かれているが、その辺りは見ていて苦しかった。短い時間でこの設定に整合性を持たせるなら荒療治になってしまうのは仕方がないのだろうと自分を納得させた。細かい心理描写については「ウルフにその言い方しちゃダメだよ」というように、カウンセラー視点で心配してしまうほど、緻密でリアリティに溢れていた。

ここまで書いてきたように、私はついつい心理描写に着目してしまうので、良い意味でも悪い意味でも心を上下に揺さぶられ、あっという間にエンドロールに到達した。あまり触れなかったが、アクションやテンポの良い展開だけでも充分に良作。

散りばめられた伏線をしっかりと回収していくので、パズルを完成させたときのような爽快感は、いまでも心に残っている。

The Accountant
ザ・コンサルタント

田舎町のしがない会計士クリスチャン・ウルフに舞い込んだ、大企業からの財務調査依頼。彼は重大な不正を見つけるが、なぜか依頼は一方的に打ち切られる。その日から、何者かに命を狙われるウルフ。実は彼は、世界中の危険人物の裏帳簿を仕切る裏社会の掃除屋でもあったのだ・・・。年収10億円、天才的頭脳を持ち、最強のファイターでもあり、命中率100%のスナイパー。本籍・本名・私生活、そのすべてが謎に包まれた会計士が、アメリカ政府、マフィア、一流企業に追われてまで危険な仕事に手を出す本当の理由とは?壮大な謎のパズルが最後にすべてカチリとはまった瞬間、あなたはもう一度最初から観たくなる――。

  • 公開: 2017年1月21日(土曜日) 丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他全国公開 (絶賛公開中)
  • 監督: Gavin O’Connor(ギャビン・オコナー)
  • 脚本: Bill Dubuque(ビル・ダビューク)
  • 出演: Ben Affleck(ベン・アフレック)、Anna Kendrick(アナ・ケンドリック)、J. K. Simmons(J.K.シモンズ)、Jon Bernthal(ジョン・バーンサル)、Jean Smart(ジーン・スマート)、Cynthia Addai-Robinson(シンシア・アダイ=ロビンソン)、Jeffrey Tambor(ジェフリー・タンバー)、John Lithgow(ジョン・リスゴー)ほか
  • 配給: ワーナー・ブラザース映画

The Accountant
ザ・コンサルタント
http://consultant-movie.jp/

文: 岡山 和正

岡山 和正 (おかやま・かずまさ)

ライター/心理カウンセラー。SOUL SAPIENS(ソウル・サピエンス)の映画評「隣の映画観」を連載、心理カウンセラーの視点と新しい切り口から映画作品を分析。カウンセリングにも映画に関する話題を活用している。また、普段から不登校問題の解決や対人関係の改善を中心に幅広い問題や課題の解決に奮闘。日本国ではまだ馴染みが薄いカウンセリングやカウンセラーではあるが、Health(健康)とMental Health(精神的健康)を重要視する海外のように、対人関係や職場環境等の問題を抱える日本国内でも学校や職場におけるカウンセリングを日常化するために挑戦している。情勢や歴史、精神論にも造詣が深い。

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