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隣の映画観|映画評|映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』(岡山和正)

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士郎正宗に技術が追いついた日―

今回ご紹介する映画『Ghost In The Shell』(邦題:ゴースト・イン・ザ・シェル)、その原作・士郎正宗の『攻殻機動隊』は、示唆に富んだSF作品として国内外にファンが多い。

 

士郎正宗の他にも星新一や田中芳樹などのSF作品を読んできた私は、良いSF作品は、時として予言の書のような存在であると思っている。『攻殻機動隊』の世界(観)は、まさしく「予言書」と呼ぶに相応しいものだ。 原作が作られたのは1988年。映画化、アニメーション化、そして、今回のハリウッド実写化と、何度も『攻殻機動隊』の世界(観)が作品化されてきたが、どの時代もその世界(観)に敬意を表し、その時代の技術を結集して作られてきた印象だ。だからこそ、いまでも過去の作品は色褪せないし、新鮮さを提供し続ける。また、1999年公開の映画『The Matrix』(邦題:マトリックス)もこの『攻殻機動隊』から影響を受けている。 多くのクリエイターたちが、『攻殻機動隊』にインスピレーションを感じた話には枚挙に暇が無い。

映画『Ghost In The Shell』というタイトルは、ジャーナリスト/小説家/政治活動家/哲学者のArthur Koestler(アーサー・ケストラー)の著書『Ghost In The Machine』(邦題:機械の中の幽霊)に由来しており、この著書で表現されいる「ホロン」という階層を表す発想は、タイトルだけではなく、作品の根幹を成す要素としても大きく影響している。そのため、一読の価値はあるが、内容は重厚で読むのは一苦労だ。さらに著書『Ghost In The Machine』(邦題:機械の中の幽霊)は、現在は販売されておらず、入手困難となっている。ちょうど『攻殻機動隊』が出た1986年あたりから「ホロン経営」として、日本国のマネジメント層からも注目されていた。

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さて、ここまで原作を含めた大まかな話をしてきたが、映画『Ghost In The Shell』(邦題:ゴースト・イン・ザ・シェル)の紹介に移る。

今回のハリウッド実写化の世界(観)については、『攻殻機動隊』を知っている人であれば、よくぞここまで表現したという感想を持ち、知らない人でも近未来的で不思議な世界(観)だと映像や音楽から感じるのは容易。「やっと、技術が士郎正宗の世界を実写化できるところまで来たんだ」と言うのが感想。本当に、この『攻殻機動隊』の世界(観)を実写で表現するのは、かなり難しかったのではないかと思う。もちろん過去のアニメーションでも表現するのは大変な労力だったはず。それほどに緻密に、そして、現代にない未来を描く作業は根気と創造性が必要。私が、もしRupert Sanders(ルパート・サンダース)監督の立場だったら、「『攻殻機動隊』の世界(観)をクリエイターとして表現したい。しかし、崩すこともできない」。このまま良好な関係を続けたいが、告白をしないと付き合うことができない、振られたらどうしよう、という恋煩いに似た感覚なのではないかと妄想している。映画の難しいところは、2時間前後でまとまった話を表現しなくてはいけない点だ。「『攻殻機動隊』の世界を2時間でまとめてください」と言われたとする。『攻殻機動隊』を知れば知るほどそれを無理難題だと思うはず。では、一体、Rupert Sanders(ルパート・サンダース)監督は、どのようにして『攻殻機動隊』の世界(観)をまとめたのだろうか。その興味だけで、映画『Ghost In The Shell』(邦題:ゴースト・イン・ザ・シェル)を観賞する理由としても十分と言える。

劇中で女優/シンガーのScarlett Johansson(スカーレット・ヨハンソン)演じるMajor(少佐)ことMira Killian(ミラ・キリアン)は、原作『攻殻機動隊』では草薙素子という名前である。今回、このMira Killian(ミラ・キリアン)という名前を挟んだのには、原作『攻殻機動隊』を壊すことのできない、つまり映画『Ghost In The Shell』(邦題:ゴースト・イン・ザ・シェル)は新しい『攻殻機動隊』であるという意志を感じられる。実際には前述のような経緯ではないかもしれないが、原作『攻殻機動隊』への愛とリスペクトを随所から感じ取れる作品なのだから、そう考えても不思議ではない。

 

今回、字幕版で観賞した。日本語吹き替え版の声優は、Major(少佐)を田中敦子、Batou(バトー)を大塚明夫、 そして、Togusa(トグサ)を山寺宏一と、アニメファンにも聞き慣れた面々が並ぶ。 つまり二度観賞するべきだということである。とてもシンプルだ。

原作『攻殻機動隊』もアメリカ合衆国で注目され、逆輸入という形で日本国でも大ヒットした。奇しくも、今回、ハリウッド映画として、世界で注目を集め、再び同じ道を歩んでいる。『攻殻機動隊』を知らない人たちにも広くその名前が知れ渡った。この偉大なる作品の価値が、ハリウッド実写化のおかげでさらに高まるに違いない。

映画『Ghost In The Shell』(邦題:ゴースト・イン・ザ・シェル)公開後の評価を見ていると、原作やアニメーションへの愛が強い人ほど評価が低い様子。こうした現象についても、アニメーション『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』で描写されている。笑い男というカリスマを一般人が偶像化して崇拝し、模倣していくのだが、やはりオリジナルの価値というのは劇中の人々からは高いものとなっていた。「こんなのは笑い男じゃない」「クールじゃないね」というセリフも記憶に残っている。アニメーション『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』でも、革命家たちが持ち寄る「個別の11人」という書籍に関しても初版本かどうかを革命家たちが確認し合う描写がある。オリジナルの価値は、やはり特別だと感じることは間違いない。ただ、偉大な原作やアニメーションと比較して評価が低いという発想は、アニメーション『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』で、そこからさらに上位の階層に民衆を導こうとしたクゼ・ヒデオが否定したものに酷似している。否定することは、さらなる否定を生む可能性もある。『攻殻機動隊』シリーズの作品それぞれが独立したものとして評価せずに、全てを一つとして見なせば、それぞれの強い役割が出てくる。映画『Ghost In The Shell』(邦題:ゴースト・イン・ザ・シェル)は、『攻殻機動隊』の世界(観)に様々な階層の人を引きずり込むことができる世界的な規模を持った「ハリウッド映画」なのである。「攻殻の世界は広大よ」、この映画を入り口にして、多くの人が『攻殻機動隊』の海にダイブすれば最高だ。他の作品にもどのような役割があるのかを想像するだけで楽しい。

ハリウッドの技術は、士郎正宗に追いついた。

さて、私はどうだろうか・・・まだまだより多くの知見や知識が必要だ・・・「岡山和正、もっと勉強をしなさい」・・・

そう囁くのよ、私のゴーストが。

Ghost In The Shell
ゴースト・イン・ザ・シェル

機械の体を持つ、世界最強の捜査官。残されたのは、脳と、わずかな記憶だけ。「わたしは誰だったのか?」全世界を揺るがすサイバーテロ事件が、残された記憶を呼び覚ます。彼女には驚愕の過去が隠されていた。

  • 公開: 2017年4月7日(金曜日) TOHOシネマズ六本木ヒルズほか 全国ロードショー
  • 監督: Rupert Sanders(ルパート・サンダース)
  • 原作: 士郎正宗 『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』
  • 音楽: 川井 憲次
  • 出演: Scarlett Johansson(スカーレット・ヨハンソン)、ビート たけし、Michael Pitt(マイケル・ピット)、Pilou Asbæk(ピルー・アスベック)、Chin Han(チン・ハン)、Juliette Binoche(ジュリエット・ビノシュ)、ほか
  • 配給: 東和ピクチャーズ

Ghost In The Shell
ゴースト・イン・ザ・シェル
http://ghostshell.jp/

文: 岡山 和正

岡山 和正 (おかやま・かずまさ)

ライター/心理カウンセラー。SOUL SAPIENS | ソウル・サピエンスの映画評「隣の映画観」を連載、心理カウンセラーの視点と新しい切り口から映画作品を分析。カウンセリングにも映画に関する話題を活用している。また、普段から不登校問題の解決や対人関係の改善を中心に幅広い問題や課題の解決に奮闘。日本国ではまだ馴染みが薄いカウンセリングやカウンセラーではあるが、Health(健康)とMental Health(精神的健康)を重要視する海外のように、対人関係や職場環境等の問題を抱える日本国内でも学校や職場におけるカウンセリングを日常化するために挑戦している。情勢や歴史、精神論にも造詣が深い。

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